[書評] 君が星1をつけた本に、私は感動した。 / 『論文集』瀧本 哲史著

学生時代から今に至るまで、あらゆる起業家に関する本を読んできた。

貧困環境から日本を牽引する企業を興した起業家。
二代目として後を継ぎ、既存産業に新たなモデルで変革した起業家。

様々な家庭環境やルーツで起業家は誕生する。まさに百通りあれば百通りある。
そんな「起業」という行為に方程式なんてあるのか、正攻法があるのか。

「起業したいんですが、おすすめの本はありますか」という質問にいつも悩まされていた。
結局のところは、起業家自身の原体験や環境に左右される部分も多いのだ。
起業は実現する手段であって、起業したいから起業は本末転倒というのが私の本音だった。

ふいに良い本に触れると電撃が走る感覚がある。比喩ではなく、本当に体が痺れる、体の芯からビビッと来るのだ。
理由は分からない。文字を読むスピードが早まり、読み終えるまでその本のことばかりを考えてしまう。
移動中でも、食事中でも、トイレでも、片手に持ち読んでしまうのだ。

ふいに読んだ「起業」に関する本で、その電撃が走った。
起業論に対する正解を見つけてしまったかのような感覚である。

23年5月、思いもよらぬ流れでTwitter上で揉め事を起こしてしまった。

これが名誉毀損になるのか、という驚きはありつつも謝罪を行った。
この事業家botがとある本の酷評を何故かTwitterで拡散し、Amazonで★1レビューをつけていた。

瀧本哲史論文集。そう名付けられた書籍だった。
そんなにも悪い本なのかと思い、ポチッと購入した。そう、この本が大当たりだったのである。

この論文集の2/3を構成するのは、2010年出版の瀧本哲史氏が共著した「起業論」、起業というよりも事業構築論と言っても差し支えない。起業に至って下記のようなことを聴いたことがないだろうか。

・市場・領域選定が起業にとっては最も大切
・起業家には「原体験」が必要
・小さく試して結果を確認する(リーンスタートアップ)

この起業論が出版されたのは2010年。
13年前から現在も語られている「起業論」について故・瀧本哲史氏は講義で生徒に教えていた。

では、この起業論と名乗る本がどのような内容で構成されているかをかいつまんで紹介しようと思う。本書籍が「起業本」として非常に稀有なのは「マーケティング戦略」、「IPOのメリット・デメリット」まで語っているという点だろう。

瀧本哲史氏の遺した「起業論」、10年以上経過しても色褪せないその視点

引用出来る範囲で本書の本当に一部のみをご紹介させて頂きたい。
まず、本書は「事業領域の選定」が最も大切であると冒頭から始まる。

領域選定については古くから語られているが、直近5年ほどでよりその言及が増えたかのように思う。本書ではその領域選定の方法、「競合の弱い市場、つまり勝てる市場で戦う」ことの重要性とともに、その「見つけ方」「他社の事例」から解説されている。

瀧本哲史氏の書籍の特徴として、「多種多様な事例から共通項を導き出す」というものがある。その特徴的な手法が本書でも存分に活かされており、事例本としても楽しむ事ができる。

例えば起業家には「真実の瞬間」となる原体験があると解説した章では、サイゼリヤの創業は、正垣 泰彦会長が学生時代にバイト先の喫茶店が延焼、その際に飲食業界を見つめ直したことが「真実の瞬間」となり、起業に至ったストーリーなど複数の事例が紹介されている。

さらに本書は起業後の「マーケティング」にまで言及をしていく。初期顧客の探し方から、いっきに市場に普及させる方法まで事細かく解説する。

特にいっきに市場に普及させる方法では、Suanでしつこく報じている「フォーブス起業家」のように目立つ起業家や企業が『なぜ、市場から消えてしまうのか』という点を瀧本哲史氏の視点から解説している。本記事では紹介しないが、まさにその通りの指摘であった。

最後に本書籍で印象的となるIPOなどEXITのタイプ別解説である。IPOについては「デメリット」まで語られており、起業本としては非常に稀有なパートとなっていることは間違いない。

デメリットの内容に関しても瀧本哲史氏の知人からのヒアリング内容などが含まれており、身近な上場経営者からもよく聴くような内容であった。IPOを目指す起業家はぜひ読んでおくべきだろう。

このように本書では、事業領域の選定方法、事業アイデアの創り方、マーケティング、事業検証と評価手法、そしてEXITまで語られている。著者ならではの視点で書かれた起業に対するハウの数々。

本書は現在、中古で90円となっている。決して手にとって「損した」とは思わないはずである。
既に初版出版から10年以上経過しているが、殆ど色褪せない起業に対する考察に痺れた。私の頭の中の筆は止まらず、本書の一言一句を記憶に書き記そうとした。そして君が星1をつけた本に、私は感動した。

本書の稀有な点は「地球の歩き方」ではなく、「どのようにして『地球の歩き方』を発見するか」となっている点であり、自ら地図づくりを指南する点である。これを手に取った事業家たち、そして事業家の卵たちが、新たな船出へと出発したくなるような一冊になるだろう。

そして、起業家を支えるキャピタリストにとっては、起業家の地図作りを支援する指南書として活用できるはずである。

ボン・ヴォヤージュ。良き航海を。

そして論文集の元となった「実戦・起業論」こちらからの抜粋なので、まるっと読みたい方は下記をオススメ致します。

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