12月1日から拡散されている「東京ガスが朝シャンを広めた」というツイート。
12月2日23時現在、RT600超え、Fav4,582件超えとなっています。
『朝シャン』という新しい行動習慣は東京ガスが、ガスの使用を促すために広めたから、すべてのPRパーソン、マーケッターは覚えておかなくちゃ。タイヤ会社のミシュランがグルメガイドをつくったのも同じこと。何かを売りつけるのではなく、何かを使わなくてはいけない状況を作るという考え方だね。
— 三浦崇宏 GO (@TAKAHIRO3IURA) December 1, 2022
情報の発信源はGO代表の三浦氏。テレビにも出られている広告会社の代表です。
しかし、ご存知の方も多いと思うのですが、「朝シャンは資生堂のシャンプーから流行した」と言われているのが一般的です。
いやいや、流行らせたのは資生堂でしょ?少なくとも1987年の流行語大賞は資生堂の朝シャンCMがきっかけ。
こういう出典不明のツイートが拡散することによって、その情報が正として出回るのは怖いよね。https://t.co/jklTaJeFTp https://t.co/H0HdJeeGhs pic.twitter.com/RiaTi7cjDm
— SUAN / スタートアップアンテナ🎈 (@suan_news) December 2, 2022
SUANも知っているくらいの話でしたので、上記のような引用RTをしてしまいました。
実は東京ガスが関わっている可能性もあると思い、三浦氏が主張する「東京ガスが広めた説」はどの程度の信憑性なのか調査しました。
まず、国立国会図書館のデータベースで「朝シャン」を調べてみる
SUANでは調査の際、国立国会図書館DBを活用させて頂いております。
非常に便利で、過去に発刊された雑誌の「目次」まで検索出来てしまうんですよね。ということで、今回も「朝シャン」と入力して検索してみました。
残念、1988年までしか遡る事ができませんでした。
検索結果最上部の「販売革新」という雑誌の中に「シャンプードレッサーが定着させた」という記載がありましたので、後ほど調査致します。
続いて他のサイトで詳細がないか調べてみたところ、ドコモの「ヒットを振り返る」というテーマのページには「資生堂が流行らせた」と紹介されておりました。
資生堂の発売したシャンプー のCMがきっかけで「朝シャン」というワードが生まれ、流行語大賞になったという記載がありますね。
朝シャンプー関連製品は「TOTO」が起源か。
続いて、先ほど国立国会図書館の検索結果にあったシャンプードレッサーというワードも気になっていたので「シャンプードレッサー 朝シャン 流行」と検索。
すると、時系列ごとに「朝シャン」ブームがどのように発生したのか書かれたgooのページが見つけられました。
こちらのページによると、1985年にTOTOがシャンプードレッサーを発売、当時、下記のようなTVCMも行っていたようです。
朝食を抜いてまで朝シャンプーをしている女子高生が居たことに着目し、シャンプードレッサーを開発・発売されたとのこと。
時系列でまとめると、
1985年にTOTOが朝シャンという行動に着目し「シャンプードレッサー」を発売。
1986年に資生堂が朝シャンプーをテーマにした商品の発売、CMを放映。
1987年に流行語大賞に「朝シャン」が選ばれたという歴史のようです。
今回の調査では、朝シャンという行動変容の歴史に対して「東京ガス」は登場しませんでした。
GO三浦さん独自のルートで情報を持っている可能性もありますが、少なくとも大衆に影響を及ぼしたのはTOTOと資生堂の2社といえるのではないでしょうか。
広告御三家がいた時代、製品とセットで「文化」を売る時代だった。
ちなみに蛇足ですが、昭和の時代、資生堂 宣伝部は「サントリー」「松下電工(現Panasonic)」とならんで広告御三家と呼ばれているほどクリエイティブが強い時代がありました。
この時代は製品を作るだけでなく、新しい商品を根付かせるために「文化を作る」というようなマーケティングが必要だった時代です。音楽を持ち歩けなかった時代にウォークマンが発売され、米は釜で炊く時代に炊飯器が売られ、眼鏡のみの時代に目に異物を入れるコンタクトが登場した時代です。
当時のマーケターは試行錯誤し、CMのために曲を作り、映画を作り、実演会を行い、あらゆる手段で”新しい文化”を根付かせようとしました。
朝シャンが1987年に流行語大賞になり、一般化したのも資生堂 宣伝部の功績が大きいのではないでしょうか。
今回、三浦さんのツイートでは、資生堂への言及もなく、東京ガスの功績とまとめられており、もし東京ガスが裏で噛んでいたとしても、非常に残念に感じる内容でした。
実は東京ガスが大きく関わっていた!というような事実があれば、それは面白いと思いますので、情報をお持ちの方はご一報ください。
今回はあまり語られていない「シャンプーを毎日する」という行為自体が実は広告で作られた文化だったという話。
最後に、そもそもシャンプーという行為自体が広告で習慣化されたものだということはご存知でしょうか。
下記は1932年の花王シャンプーの広告。「せめて月二回は!」髪を洗いましょうという広告です。
驚きですよね。
その3年後には1935年の花王シャンプーの広告。「ご洗髪は1週に1度!」という広告が打たれていました。
このようにシャンプーを毎日するという行為自体が実は広告で作られた生活習慣だったりするわけです。
実際に海外と3日に1度だけ洗う、という方も多いのがシャンプーですよね。
下記Togetterでは他にも2枚ほど広告クリエイティブが紹介されていたので是非見てみてください。
・昔のシャンプーの広告に書かれた洗髪の頻度の推移がコレなかなか興味深いと話題に「今では考えられない」
他にもリクルートが「フリーター」というスタイルを一般化させるために映画までつくったり、昭和のマーケティングでは「企業主導で新しい文化を仕掛けた」という事例は非常に多いのです。
本当に東京ガスが「朝シャン」を仕掛けていたとしたら面白いとは思いますが、オール電化すらなかった1980年代、需要が有り余っているガス会社がそのようなマーケティングを仕掛けるようなインセンティブはない気がしてしまいます。
今後、エビデンスが出てくるかもしれませんが、今回の調査では「朝シャンを東京ガスが広めたというのは限りなくダウトっぽい」という結論になりました。
ハイボール→ウィスキー
女子会→居酒屋
茶道→お茶
クールビズ→ポロシャツ
熱中症→OS1とかですかね。
— 三浦崇宏 GO (@TAKAHIRO3IURA) December 1, 2022
それにしても、上のツイートにある「茶道→お茶」ってどういう意味なんでしょう…。
元々お茶は「タダで貰える」というイメージがあった影響で、1985年まで清涼飲料水の市場にはなかった製品なんです。
このブルーオーシャンに着目し、伊藤園が「おーい、お茶」を投入し切り開いた市場だったりするので、そのあたりはまた真偽不明のツイートが拡散されたらご紹介出来ると思います。