前回、スタートアップ「10X」に関する異変について取り上げました。
スタートアップ「10X」に異変か。採用ページの一部停止、定期Podcastの配信停止、代表のXアカウント削除、真偽不明の情報も飛び交う。
恐らくただの採用縮小なんですが、その流れで小売領域や10Xの事業について色々と調べてみました。見えてきたのは「未上場バブル」とも言える上場企業との評価額のギャップ、優良スタートアップの実情に迫ります。
「10X」評価額は既に148億円の規模、ストックオプションは77億円の価値で発行か
まずは10Xの評価額から見ていきましょう。INITIALによると148億円ほどのようです。
続いて登記簿謄本から発行している最新のストックオプション価格を確認します。
計算すると、恐らく社員の方々は70億円程度の価格でSO行使出来るようです。
かなり高い価格のように感じますが、そもそも平均年収が930万円とのことなので、ベース年収に加えてオプションも一応あるというような感じでしょうか。それにしても平均年収高いですね。
続いて事業の概況を見ていきましょう。
「ネットスーパー進出支援」がメインの10X、2023年の新規導入はたった3件?
10Xですが、ネットスーパーの進出支援ということでアプリやWEBの開発を支援するようなビジネスモデルとなっています。
10Xのアプリのリリース日を調べることで、年度ごとの導入件数を探っていきます。
まとめてみたところ、2023年の新規リリースはたった3件だったようです。
一部歯抜けがある可能性がありますが、ざっとアプリリリース日を年別でプロットするとこのような状況でした。
社員数は増えていますので、中々シビアそうな状況です。ちなみに月額費用に加えて流通総額の3%ほどを収入として得ているようです。10億円稼ぐには300億円の流通を持つ必要があります。
ただ、そもそも小売業は薄利多売で成長していた産業です。オープンチャットでも「本当に3%も小売側は払えるのか?」と議題にあがっていました。
ということで、さらに突っ込んで調べてみたところ、どうやら10Xの提供するステイラー、かなり限定的な使われてケースがあるようです。
10Xの「ステイラー」、小売チェーンのPoC的な役割も果たしているか。各チェーンで限定的な使い方が散見。
ステイラーですが、小売チェーン全店舗で導入しているかと思いきや、「エリア限定」や「店舗限定」での導入が意外と多い状況でした。1店舗というチェーンも多く見られます。
全店舗導入前の、いわゆるPoC(事業検証)としてサッとステイラーを入れて検証したというような企業が多そうな印象です。
ただ変動費として3%あるとなると、流通額が増える前にスイッチしたいのが本音でしょう。
実際、リリース時からがっつり組んでいたイトーヨーカドーもステイラーの契約を解除しており、基幹システム提供会社と組むという話になったようです。
ということで、ここで出てきた「基幹システムの存在」、どういった企業が運営しているのか調べたところかなりの優良な上場企業が発掘されました。
時価総額90億円のサイバーリンクス(3683)、加工卸向け9兆円のPFを握る。小売向け基幹もシェアトップ。
時価総額90億円のサイバーリンクス(3683)という会社が流通チェーン向けのシェアを軒並み1位を取っていました。基幹システム、EDI、生鮮発注などでシェア1位となっているようです。
10Xが148億円、サイバーリンクスが90億円なので、かなり割安に感じますね。
流通向けのシステムは20%ほどの高い利益率となっており、右肩上がりのようです。
さらに驚きなのが加工食品卸向けのPFに至っては9兆円の流通を握っているとのことで、全流通の30%ほどを抑えています。すごいですね…。
ちなみにこちらのサイバーリンクスもネットスーパー支援を手掛けていました。
基幹システムから組み込めると商品の突き合わせなどがかなり楽に出来そうです。
実際に10Xの記事でも「SKUの突き合わせ」というのがトピックとして上がってくるんですが、そもそも基幹システム会社がネットスーパー支援すればこのあたりも楽に導入できるんですよね。
再三になりますが、こちらのサイバーリンクス(3683)、黒字経営、シェア4冠、9兆円の流通を握っていて時価総額たった90億円です。一方、10Xは148億円。
未上場バブルとも見てとれる「上場株とスタートアップの価値ギャップ」、興味深い事例調査となりました。
小売に興味ある方はリテールオープンチャットでぜひ色々話しましょう。delyやエブリー、サイバーエージェントなども直近かなりリテール領域に力を入れているようで、競争が激化してきています。
10Xについても引き続き注視していきます。