本記事は「美しく、綺麗なビジネスモデルのスタートアップ」という印象の裏に存在していた「消費者を偽るようなビジネス」の実態を調査したレポートになります。
舞台はヘアケア市場。女性の66%が悩みを持つ”コンプレックス市場”が舞台となる。登場人物はパーソナライズシャンプー「MEDULLA」の販売企業、株式会社Sparty。
国内初のパーソナライズシャンプーとして2018年5月にリリースした「MEDULLA」。商品コンセプトは”自分専用、世界に一つだけのシャンプー”。髪の悩みに応じて3万通りから、自分だけにあった専用のオーダーメイドシャンプーを作るという製品コンセプトが市場に強く受け入れられました。
その結果、たった5年ほどで300万本を達成、株式会社Spartyの時価総額(評価額)は237億円まで上昇。2020年12月には代表の深山 陽介氏はフォーブスの発表する日本の起業家ランキング7位に選ばれております。
そんな”華麗なるスタートアップストーリー”の裏には、パーソナライズの根幹を揺るがすような実態、消費者を騙すような広告手法、あえて解約をしづらくする経営方針など、”華麗なるスタートアップの実態”とはかけ離れた拝金主義とも見られるビジネス構造が隠れていました。
今回の件をフロー化したものなります。
MEDULLAの商流工程全てにおいてインモラルとも言える手法が見え隠れしており、一点ずつ解説していきます。
話は”パーソナライズシャンプー”という市場の誕生から遡ります。
- MEDULLAが切り開いたパーソナライズシャンプー市場。ユニリーバなど大手5社以上が参入。
- 「開始はWEBで、解約は電話のみ」、自動音声は繋がらず、”想定外に数万円の定期購入”になるケースも。
- Sparty社の薬機法、景表法違反にあたるリスクの高い「キワドい広告」の表現と手法に関する全貌
- MEDULLAの謳う5万通りのカスタマイズは”現実的にほぼ不可能”か、実態は100通り程度のラインナップか。
- そもそも、製品のSKU(種類)自体が5万通りも存在していない可能性が高い
- 化粧品販売時申請で5万通り出すということが非現実的である
- オープンにしても引け目のない売り方、ビジネスを。そして、ビジネスの背景まで見ない投資家の功罪。
MEDULLAが切り開いたパーソナライズシャンプー市場。ユニリーバなど大手5社以上が参入。
まずはメデュラの歴史から振り返りしていきます。
2018年5月にリリースした「MEDULLA」は、多くのスタートアップコンペティション(ICC KYOTO 2018 スタートアップ・カタパルト、B Dash Camp2018 Fall )で入賞し、スタートアップ以外のヘアケアメーカーにも知られることになります。
その結果、パーソナルシャンプー市場に参入する企業は増え、2021年2月時点でロート企業やユニリーバ、i-neなどの大手企業も参入。「パーソナライズシャンプー市場」という一つの市場が誕生しました。
このようにパーソナライズシャンプー市場を開拓したとも言える「MEDULLA」。先行者優位を見事に勝ち取り、2023年時点で300万本の販売本数を達成しています。
その一方で、急成長の裏には購入前の広告では「薬機法違反リスクのある広告」や「消費者不利な解約防止策」など法的にもモラル的にもグレーな手法を断行し、消費者を騙すような実態が存在していました。
「開始はWEBで、解約は電話のみ」、自動音声は繋がらず、”想定外に数万円の定期購入”になるケースも。
2021年2月22日、消費者庁がネット通販などでの定期購入に対し刑事罰を科すと報じました。報道された内容は、まさにMEDULLAのビジネス手法でした。
MEDULLAの急成長の裏には、こちらのニュースで報道されているような悪質な制約、解約手順が存在していました。行っていた方法は下記のようなものになります。
- WEB上で簡単に定期購入、初回は無料と謡い、申込みフォームまで誘導
- フォーム下部に小さい注意書きで「4回セットで初回のみ無料、停止不可」と記載
- 気づかずに数万円の契約が締結。さらに定期購入がスタートするも、解約は電話のみ。
当該キャンペーン中に申し込まれた方のツイートが下記です。
初回無料の刑事罰ニュースが流れたのが2021年1月、当該ツイートは21年の8月。信じられないことに報道後にも同様のマーケティング手法を実施していたようです。
メデュラのシャンプートリートメントが
7480円+送料が0円!
って広告あって
そんなわけあるかいっ!
って思ったけど最後の決済ボタン押す直前で
ちっっっさい文字でこの注意書き、、これってあり?
メルカリで沢山出品されてて
月一で送られてくるプランを
申し込んでしまいましたって
いっぱい居た pic.twitter.com/lTRvSMxNzh— うし🐄はなえ (@kazjun_02081130) August 2, 2021
さらに、ネット上で匿名口コミ投稿ができる「みん評」というサイトでは300件以上の低評価レビューが書き込まれており、「詐欺のようだった」という旨の投稿も多く見受けられます。
さらに消費者庁が開示した「Sparty」に関する問い合わせ件数の資料をみたところ、少なくとも2021年1月~12月の間でSpartyに関する相談が400件以上も消費者庁に寄せられていた事が判明しています。
メデュラの申込みは「WEBで簡単」、解約は「電話のみ」の煩雑フロー。WEB解約導線を断固として設けない異様さ。
さらに、申込みは「WEBで簡単」にさせ、解約は「電話のみ」というフローを行う異様さも口コミでは指摘されています。
調べたところ、「一時的にWEBの解約フォームも設けていたが、取りやめた」という経緯があるようで、このことからSpartyはあえて消費者が任意に解約できない状況をあえて作り出し、解約できないようにしているというまさに拝金的とも言えるような方法で顧客の解約を防いでいます。
口コミでも「解約したいのに電話がつながらない」というような口コミが散見されています。
フローを煩雑にし、解約を防ぐ、まさに拝金主義的なビジネス手法と言えるのではないでしょうか。
Sparty社の薬機法、景表法違反にあたるリスクの高い「キワドい広告」の表現と手法に関する全貌
メデュラの広告運用では「景表法」「薬機法」2つの点で違法リスクのある広告を運用しておりました。まず景表法に関して、メデュラでは下記のような広告を各LINEプラットフォーム上で配信しています。
こちら3000名限定と書いていますが、もし本当に3000名限定でなければ、実態に伴わない、過度に煽るような広告は「おとり広告」にあたり、景表法違反となる可能性もあります。幾度となく限定を謳った広告を見ていますが、それは真実なのでしょうか。
FBのビジマネが死にました。
現在必死に復旧中。また、LAPで取れてたCRも全部死にました。
今日厄日かな?— 藤田凌介 (@6ubD6d) January 18, 2023
Spartyの広告担当者のツイートにも「全てのクリエイティブが止められた」という旨のツイートも存在しており、プラットフォーム側から規制されるような内容での配信が常態化している可能性を感じます。
さらに自社メディアで「自社商品が1位」と自作自演の宣伝。薬機法における比較広告違反の可能性。
さらに薬機法違反のリスクが非常に高い手法も取られておりました。
下記がSparty社保有ドメイン(medulla.co.jp)で運営されていたメディアのスクリーンショットになります。
おすすめランキングとして「メデュラ」を1位にしていることがわかります。
このように自社商品を他社商品と比較して宣伝することは薬機法で違反とされている比較広告という行為にあたります。
TVCMやメディア露出を通じて生成された強力なドメインパワーを駆使し、あらゆるシャンプークエリで1位を取っていたようです。
さらに、こちらのメディアですが、昨日までbeauty-parkというサイトにリダイレクトされておりましたが、SUANにてツイートを行った後、Wordpress自体が削除されておりました。
「メデュラ 口コミ」などで検索するとまだキャッシュは残っていたりするので興味のある方は見てみてください。このような施策は他社商品をランキング下位にするなど、薬機法リスク以外にもモラル面で問題があるように感じます。
MEDULLAの謳う5万通りのカスタマイズは”現実的にほぼ不可能”か、実態は100通り程度のラインナップか。
続いて、そもそもの「オーダーメイド」という商品コンセプトが実現できていないのではないかという点に関して解説していきます。
MEDULLAのカスタマイズシャンプーは「5万通りの処方」が存在すると公開しています。
こちらの公開されている処方数に関して「実務上、不可能ではないか」という情報を頂きまして、調べてみたので解説させて頂きます。
そもそも、製品のSKU(種類)自体が5万通りも存在していない可能性が高い
各化粧品には「販売名」が定められており、固有のものとなっております。
MEDULLAに関しても裏面には型番と成分が記載されており、下記のシャンプーリストというサイトでは23年1月現在、合計16種の販売名称と成分の確認が可能になっておりました。
こちらのシャンプーリストにある情報からおおよその販売名称の命名規則が見えてきました。メデュラシャンプーに関しては3つの情報の掛け合わせで構成されているようです。
と考えられます。各項目を1・2・3に分けて試算を行います。
1のアルファベットはA~Gまでまでの7種を確認。
2の数字に関しては3桁あるものの1~2の2種類しか確認できておりません。
3のローマ字記号に関しては公表されている香り指定のため5種類となっています。
上記の組み合わせを計算した結果が上記の70通りなります。そもそもオーダーメイドにも関わらず、この型番の被りも散見され、各変数が増えたとしても謳われている5万通りまで増えるとは考えづらい状態が見えてきました。
さらに、そもそも化粧品販売を行う際には製造販売届出を役所に届ける必要があり、実際に実現する場合には5万通り申請する必要があるとのこと。オペレーション的に5万通りの処方は不可能ではないか、という点について解説していきます。
化粧品販売時申請で5万通り出すということが非現実的である
国内で化粧品(シャンプー等)を販売する場合は、あらかじめ各製品ごとの製造販売届提出が義務付けられています。
下記に愛知県が公開していた書類のフォーマットをご紹介いたします。
なかなか複雑な書類ですが、これらの書類をメデュラ、もしくは製造元のサティス製薬は5万通り提出しているのでしょうか?
実際のフローとなると下記のようなフローになることが想定され、実務的に非現実的であるように思えます。
基礎成分を変えず香料や色素を変えた場合は提出不要となっており、ありえるとすれば、香りや色の組み合わせで5万通りと言っている可能性はあります。
ですが、だとしたら、あなたの髪質に合わせて5万通りという言葉に嘘はないのでしょうか。もし、パーソナライズシャンプーの根幹である”オーダーメイド製”が偽りであれば、景表法上の優良誤認などにあたる可能性も考えられます。
5万処方に関しては、あくまで非現実的という話であって、何らかの効率化を行い申請されている可能性はあるということは補足させて頂きます。
オープンにしても引け目のない売り方、ビジネスを。そして、ビジネスの背景まで見ない投資家の功罪。
以上がMEDULLAビジネスの全貌になります。
消費者を煽り、欺き、解約すらさせづらい状況をあえて生み出し、定期購入させ続けるという搾取的なビジネス手法。
Spartyは一刻も早く「WEBの解約フォーム」の設置を行い、煽るような広告手法の停止、処方数の正しい数字の開示を行うべきです。
Sparty(メデュラ)の件、図解化しました。
これで「投資家は無関係」ってどの口が言えるんでしょう。前期の赤字16億円、広告費の源も投資マネーです。消費者庁に相談されようなビジネスモデルに半ば直接的に関与してるのが役員派遣までしてるロレアルですね。
記事全文https://t.co/Mk5d06DWyQ pic.twitter.com/Z8fiiJleY5
— SUAN / スタートアップメディア🎈 (@suan_news) January 25, 2023
Spartyの投資家には「ロレアル」「マルイ」「アカツキ」「ジンズ」などの上場企業も並びます。ロレアルに関しては社外取締役まで務められておりました。投資家は”未知なるビジネス”へ投資する上で、ビジネスの背景やロジック、広告手法を正しく理解する必要があります。
未知なるスタートアップへの投資に潜むリスクの種は、投資家自身の手で摘むべきなのです。そして、投資先を「正しい道」へと導くことも、投資家の役目だと強く感じます。