なぜ、信託型SOの悲劇は起きたか。開発元「コタエル信託」、売上6倍・営利1億超えの荒稼ぎ状態だった。

5月29日に開催された国税庁による「ストックオプション税制説明会」で、正式に信託型SOスキームが否定されました。
信託SOなら20%でいけると言われていましたが、給与課税の対象となり、過去分も遡り55%での税率での課税となるとのこと。
※現在、国税庁では未納状態という認識らしく遅延による課税もありえると一部では言われています。

信託SOに至っては国内で上場企業を含めた800社以上が導入しており、スタートアップ問わず大きな問題となっています。今回は信託SOの悲劇が何故、起きてしまったかを深掘り、また開発元のコタエル信託の決算にも触れていきます。

信託SOスキーム、国税庁への照会なしで節税商品として展開されていた衝撃

この「信託型OSスキーム」は、2014年に松田良成弁護士が中心となり開発した節税スキームです。今回の説明会で最も衝撃的だったのが「信託SOスキームについての照会は国税庁および各税務署でもで把握していない」という発言があったことです。

つまり、国税確認を取らずに販売されていた節税スキームだったようです。

導入した多くの企業が、当然に国税確認を取れていると思っていたはず。
何故、確認を取っていなかったのか松田弁護士のインタビューより紐解きました。

発明者の松田弁護士「手法は企業秘密」「法改正がないなら発明すれば良い」、秘匿主義により国への事前照会を怠ったか

過去にNstockでは松田良成弁護のインタビュー記事を公開されておりました。本記事は国会答弁があった2月末~3月上旬にかけて削除されていたようです。

このインタビュー記事に、国への確認を取っていなかった根源が見え隠れしていました。

松田弁護士は信託SOについて「誰も知らないような税制を用いた節税スキーム」を用いたと答えられています。

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その後、さらに「法律がないならそれに合わせた商品を開発する」という主旨も答えられています。

そして、SO信託の節税スキームについては「企業秘密」と回答を控えられておりました。

このように松田弁護士のインタビューでは「手法は企業秘密」といった表現や、「自分だけの知っている税制を用いた私の考えたスキーム」というような表現が使われていた事がわかります。

本来、今回のように「適法性が不明なスキーム」を確認するために、国税庁では「事前照会」という制度を設けております。本制度を用いれば、文書で回答を貰うことが可能です。他にもグレーゾーン解消制度という新規事業の適法性確認を取ることも可能でした。

一方でこれらの適法性確認を行った場合、「信託SOスキーム」の概要や手法が公開されてしまうというデメリットが存在していました。
競合も出てきていたので、このあたりの照会をしていなかった可能性が考えられます。

このような「情報開示」を避けるために文書ベースでの事前照会をされなかったのでは、と考えられます。そして、この信託SOの開発者である松田弁護士はコタエル信託という信託SO会社を経営されており、売上・利益ともに急成長していたようです。

コタエル信託の売上7,964万→4.9億円に急拡大。営利1.4億円の荒稼ぎ状態だった。

信託SO第一人者の企業ということもあり、コタエル信託を用いた「信託SO」の導入が相次いでいました。一部ではコタエル信託・プルータスの信託SO以外は上場審査に通らないなどという真偽不明の情報も飛び交っていたようです。

ということで、下記がコタエル信託の決算情報です。

出典:コタエル信託_決算資料より

直近の売上は前年比6倍の4.9億円、営利は1.4億円とかなりの高収益&高成長経営だったようです。

一方で、国税に問い合わせしていなかったことも露呈しており、今後契約企業からの抗議が避けられないと想定されます。高成長が継続するかは不透明な状況です。

なぜ、信託SOの導入企業は加速的に増えたか?損害社数800社を超える被害に

今回の信託型SOスキームに至って、SmartHRなども導入しており「新しいSO制度」として先進的なイメージ、かつ後から入ったメンバーにも有利な条件でSOを渡せるということで非常に流行った節税手法となっておりました。

また、ベンチャーキャピタルにおいてもCoral Capitalなども特集記事を執筆、勉強会も開催するなど「グレーである」と認識しないまま推奨しておりました。

さらに、上場企業を含めると800社以上が導入していたと日本経済新聞は報じており、実際に多くの上場企業でも導入されていることがSOICOのページから現在も確認が取れます。

引用:SOICO導入事例一覧が掲載されている

このように誰も「グレーな節税手法である」ということ自体に懸念を抱いていなかったのが信託SOという節税スキームです。

しかしながら、2014年の開発から8年間という長い期間、導入企業においてはほぼ誰も国税庁に照会していなかったというのは「何を言っているかではなく、誰が言っているか」を重視してしまった怠慢の結果と言わざる得ません。

日本の税制においては「公平・中立・簡素」の3つを原則として制度制定されており、今回の判断は恐らく覆りません。この結果について損失を被る従業員の方もいると思いますが、導入してしまった各経営者の判断にて納得いく対応がなされることを祈ります。

また、本件の適法性を怠っていたにもかかわらず、商品化していた各信託SO事業者や、合法的に報じていた各メディアにおいても、今後の誠意ある対応を期待しています。

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